特殊な性癖を持つものはけして少なくはない。

かつての主君は、戦いの中に快楽を見つけ出すタイプだった。

天下布武を掲げた織田信長は混沌と殺戮の中に快楽を見い出していた。

幾人もの女性と関係を持ち続けることがいいとする男もいる。

だが、今直江兼続を上から愉快そうに見下ろす相手はこの上なく厄介な性癖の持ち主だった。



































うつ伏せの状態で寝かしつけられ、腰の真上に座っている男は、「傷つける」ことが好きだった。

殴る蹴るなどの行為はないが、爪を立ててあとを残したり、噛んだりするのが好きだった。

既に露出した肩や首には痛々しく傷がつき、服には赤い染みができている。

かと思えば肌にはいくつものキスマークが残されている。

皮膚が避けた痛みに嫌な汗をかく。

右手はまるで恋人同士のように重ねて指を絡めるくせに、左手は刻々と兼続を傷つけ、犯してていく。

「痛いか?兼続」

笑うように喉を軽く鳴らしながら尋ねる。

「・・・・・・ッ」

「わしが聞いておるのだ、答えよ。」

肩を掴んだ手に力がこもる。

傷が強く圧迫されて、痛みが増した。

「・・・ぃ・・・たくなど、ない・・・ッ」

本当は痛みがズキズキと広がるのだが、ここで痛いと言うのは兼続のプライドが許さなかった。

―大の男が、この程度の事で弱音を吐いてなるものか。

「は・・・つまらぬ男よ」

首筋の傷の上からきつく吸われ、痛みと共に快楽が走る。

「っあ・・・!」

何度も教え込まれたお陰で痛みすらも快楽になるこの体。

「・・・変態」

嘲るような笑いと共に浴びせられる言葉は急速に理性を失わせるようだ。

満足したように笑うと、兼続の体を離し、肩を掴んで自分の方を向かせる。

背中についた傷が擦れて痛い。

「どうして欲しい?貴様が望む様にしてくれよう」

乱れた着物の間から綺麗な肌と鎖骨が覗いた。







触れたい、触れられたい







もっと、もっと強く










理性は言葉に消され、痛みは快楽へと変化する。

「・・・お前が欲しい・・・」

傷つけることで快楽を見い出す相手も相手だが、傷つけられて快楽を得ることの出来る自分も、自分なのだと思う。

「上出来じゃ」

相手を屈伏させた瞬間、この男はこの上なく安心したような、満足したような笑みを浮かべる。












片手は優しく絡み合い、反対に噛みつくような荒い口付が落ちる。



確実に侵蝕され、傷を刻まれることで縛られていく自分。





そんな自分を欲する相手。











愛しているとは言えなくとも










一生離さないでくれ










無理な望みを抱いてその手を握り返した。

















<傷>