秀吉の全国統一が成された少し後、大坂城では小規模な宴会が催されていた。
親睦を深める、という名目で幾人かの大名もその場に呼ばれていた。
例に漏れずその中の一人に、奥州の覇者、政宗もいた。
溺れた夜
正直、何故わしがこんなことに付き合わなくてはならんのか、という気分だった。
酒は嫌いではない。
だが、宴会などというものはどうにも馴染めなかった。
派手なのは好きだったが、羽目を外し過ぎるのは政宗の好みではなかった。
だから適当な理由を付けて抜け出し、景色を眺めつつ城内を散策していた。
かなり騒いでいたので、おそらくは誰も気が付かないだろう。
「バカどもめが」
これでは天下もそう長くは続かまい、などと考えつつ歩をすすめるが、少し酔っているのか、眠くなってきた。
酒のせいか喉が乾く。
宴会の席で水を寄越せなどと言うわけにもいかず、だが今眠りこけるわけにもいかない。
ふと目に止まった一室に、皺ひとつ無いような布団が綺麗に敷かれていた。
部屋の主は余程神経質なのだろうか、などと思いよく見ると、枕元にはおそらくは水であろう液体の入ったいれものと、猪口が添えてあった。
悪いとは思いつつ、周囲に誰もいないのでそれを頂くことにする。
物も少なく、質素な部屋。
それほどの身分の者では無いだろう。
政宗は座り込むと猪口に液体を注ぎ、くい、と飲み干す。
先程用意されたばかりなのか、水は冷たく、酔いを醒ますようだった。
水の割には、甘い。だがその甘さも心地よかった。
そうであったはずなのに、しばらくすると体の奥はじん、と熱るようだった。
「貴様この部屋で何をしているッ!!」
聞き慣れた声がした。
あーだこーだといつも五月蝿い、あの兼続の声だ。
ガンガンする頭の中に、怒鳴り声が響いてくる。
「宴会を抜け出したと思えば、こんなところに・・・一体何をしているのだ!」
五月蝿い
「まさかよからぬことでも企んでいるのではないだろうな?」
五月蝿い
「答えろッ山犬!!」
五月蝿い五月蝿い五月蝿い
いっそその口塞いでやろうか
考えた瞬間にはもう行動に出ていた。
襟首を一気に掴んで引き寄せると、開いた口を自らので塞いだ。
「なん―・・・んっぐ!?」
歯が当たったことなんて気にせずに舌を挿入し、逃げる相手を捕えては絡める。
酒の味と先程の水の甘さが口の中に溶ければ、もうあとは何も考えられない。
「ん、んん・・・っふ」
逃げようとする度に襟を強く引き、更に深く口付ける。
腰を撫で、手が帯にかかれば相手の体はぴくんと震えた。
どん、と肩を押してて壁を背にして座らせらせ、今度は首筋に舌を這わせた。
右手はぺたぺたと腰を触り、時折体を撫で上げる。
「・・・っさむね・・・!止、めっ」
「無理じゃ。もう止まらん」
予想していたよりも遥かに熱い息が、耳元にかかる。
服の上から撫でていた手が急に侵入を果たし、硬くなり始めた乳首に触れた。
山犬、離せ、汚い手で触るな
そんな台詞が次々と浮かぶのだが、口から漏れるのは甘い吐息とそれに混じった僅かなあえぎ声だけだった。
「・・・ふっ、は・・・」
痛みに混ざった快楽が弱く、時に強く与えられ、そうかと思えば鎖骨の下辺りを甘く噛まれる。
たったそれだけで全身に熱が広がり、くらくらと頭が麻痺してくるようだ。
「・・・んっ、あっ!?」
急に政宗の手が兼続の自身に触れたかと思えば、その硬さを確かめるようにしたあと直ぐにその手は太ももへと移動し、軽く撫でたあと後孔へと向かった。
入口を撫で回されれば、その感覚に背筋がぞくぞくする。
「・・・慣れておるのな」
言葉と共に深く入れた指が中を割り、ゆっくりと広げていく。
痛みとかすかな快楽に奥歯を噛み締めて耐ているようで、政宗の服を掴む手に力が入っていた。
擦られるように広げた中はとても熱く、甘く。
一点をかすれば酷く指は締め付けられる。
は、と勝ち誇ったように笑い、反応を示した部分を強く攻めたてると、相手は悲鳴を押し殺したように喉を鳴らした。
指が増えるにつれて兼続の自身は質量を増す。
もはや抵抗も出来ないらしく、せめて己が感じている顔は見られまいと政宗の首に必死にしがみついている。
ぐん、と足を持ち上げ、広げさせると最後の抵抗と言わんばかりに政宗を押し退けようとした。
「・・・チッ」
手間をかけさせおるわ、と短くぼやくと、露になった鎖骨の下の当たりに強くかみついた。
「イっ・・・!!うぁあ・・・っ!くっ、ん」
思わず力が抜けた体に挿入することなど容易い。
卑怯者と言わんばかりにギッ、と睨む視線に余計に欲情した。
―美しい。
凜とした、自分にはない、潔い美しさ。
手に入らないとわかっているからこそ、そのすべてを壊したくなる。
勢いに任せて突きすすんだ。
時々痛みに上げる悲鳴も聞かないふりをして。
強く入れる度に兼続の眉間の皺は寄り深くなった。
―子供だと
子供だとばかり思っていたのに。
普段、彼の周りがずっと大人ばかりだったためか、子供だとばかり思っていた。
だが、今政宗が見せる顔は、男の顔だった。
時折見せる表情が
とても精悍で
美しい
そう認めるのと限界に達するのはほぼ同時で、すぐ後に相手も吐精したようだった。
終るや否や、なぜこんな男に・・・、と政宗は後悔の念に襲われていた。
一方兼続も、政宗に対しありったけの文句を言っていた。
最後には罪をなすりつけあう大ゲンカ。
しかもそれはお互いの保護者が探しにくるまで続いたという。
情事の間に見つけた事を、お互い再認識するのはもう少し先の事。
・・・かもしれない