遊月夜














月の綺麗な夜に、孫市は一人自室で月見酒を決めこんでいた。
奥州王に応じて伊達の傘下に入った孫市の扱いはたいそうなものだった。
一番眺めの良い部屋で、ゆったりと過ごす平和な日々。
長年傭兵行を仕事としてきた孫市にとっては慣れない事ではあったが、意外にも悪くはないと思っている。
そう思うのは、愛しい人が側に居るからか。
自分は、恋をしていた。
相手は女ではない。
無類の女好きで知られた自分がだ。
昔の俺なら、信じられないな。
たった一人の野郎に、夢中になっているだなんて。
ふと、酒を飲んでいて思った。

















新しい酒をつぎたすと、不意に声がした。

「まだ起きていたのか・・・孫市」
振り返ると、煙草を加えた政宗が立っていた。
「政宗」
呼びかけると、政宗はすとん、と孫市の隣に腰を降ろした。
孫市の恋慕の相手は、独眼竜で知られるこの政宗だった。
一応は恋人、なのだが、忙しさにかこつけて最近はなかなかに会える時間も少ない。
実際、まだこの青年を孫市は抱いていない。
抱きたいと思う事はあるが、時間と、そして本人がそれを良しとしない。



「随分と良いものを持っているな。わしにも寄越せ。」

相変わらずの我が侭っぷりに呆れつつ、手にしていた杯を渡す。
そんな所も、愛しさの内だからだ。

「前々から、孫市とは飲んでみたいものだと思っていた。」
笑い混じりに政宗が言った。
「そりゃあ光栄だ。殿様と酒の席を共にするなんてめったにできないからな」
孫市が冗談混じりに返すと、政宗が笑いなが酒を飲んだ。




伸びた喉元が不意に目に入った。
こく、と喉が鳴る。
酒に濡れた唇を見て、無意識に唾を飲み込んでいた。


隻眼が流した目線に引かれて。


もう何か、剥き出しになる欲望にあらがえない気がした。


据え膳食わぬは男の恥


そんな言葉が頭を霞め、孫市は政宗を無理矢理に押し倒した。




































暗転する世界に、政宗の瞳が驚きに染まる。
着流し姿から覗いた肌は若さ故か、滑らかに美しい。
日に焼けない部分は驚くほど白く。
自然と、唾が喉を嚥下した。






















「ま、孫市?!」
見上げる隻眼ははっきりと怯えの色を映していた。
だがそれを無視して、孫市は政宗の唇を奪う。
上に股がって肩を押さえれば起き上がることは出来ない。
突然の事に思考が追いつかないのか、絡める舌もたどたどしく動くだけだ。
「!っぅ、ん・・・っ」
くちゅ、ちゅ、と厭らしく響く水音に反応してか、足が僅かに動いて抵抗の色を見せたが、それも虚しく終わった。


浅く、深く。


政宗が口付に酔いしれているのは明らかで、それは孫市の気分を良くさせた。





―もう、我慢なんてできねぇ。





唇を離すと、熱い息が出る。
緩く開く隻眼に映る自分を思い浮かべながら、首筋をきつく吸ってみた。
同時に手を侵入させ、胸の飾りを摘んでみれば、相手からは甘い響きが漏れた。
「ゃ、・・・ぁ、あ」
点々と痕が残る首筋を甘く噛む。
ピリリと走った痛みのような快楽が、政宗を現実に引き戻した。
「やめっ、まご・・・、ぁあっ」
ぷっくりと熟れた乳首を指の腹で押し潰して、そうかと思えばきつく摘み上げて。
快楽は下肢へと響いていく。
「ゃ、やだ・・・っは、ぁ・・・」
快楽に呑まれそうになりながらも、それでも尚政宗の腕は孫市を押し戻そうとする。
ぐい、とその手を掴んで状態を起こさせると、両手を掴んでまとめあげる。
ちゅ、と軽く手首に口付けてから素早く外した相手の帯で腕をきつく縛ると、政宗の顔にはもう怯えの色しかなかった。
「ま、孫市・・・」
「そんな顔すんなって。・・・優しくするからさ・・・。」
腰を掴んで政宗をすっぽりと後ろから抱き抱えつつ、耳の裏から言う。
「いっ、嫌じゃ・・・ゃ、やあ、ぁ・・・っ」
先程とは反対の粒を撫で、項に唇を寄せる。
次々と唇を走らせ、肩にも首にも痕を残していく。
眼帯も外して、着物の前を広げる。
だんだんと露になる己の姿に、羞恥心は募るばかりだ。


孫市の右手が優しく膝から腿を割り、ゆっくりと太ももを往復した。
「太もも、柔らかくて気持ちいい・・・」
色気を含めて耳を舐めながら言われると、その声が脳に直接響くようだ。
「な・・・にを、っ」
は、は、と政宗は肩で息をしている。
「そろそろ・・・直接欲しいだろ・・・?」
そう言って褌の上から緩く握ると、そこはもう硬く熱を持っていた。
「ぅ、ああっ・・・ぁ、あ・・・!」
緩めた下帯の中に手を入れ、先端を軽くひっ掻いてからぐりぐりと指でいじれば、抱き締めた体が跳ねた。
窮屈そうにしているそこはぬめりを帯びて孫市の手を汚す。
強すぎる快感にか、それとも恐怖にか、片方だけの目から涙がぽたぽたと流れ落ちる。
「っう、ぅ・・・っくんッあ・・・っ」
強引に取り出した政宗自身を手のひらで包み込み、根元から先へと強く抜き上げる。
時折、先端に優しく爪を立てれば、そこはいっそうと成長する。
「ぁ、あッ・・・ひあっ、も、ふああっ」
乳首を指で摘んで、項を舐めて、その上自身を抜かれて、政宗は限界が近かった。




意識が白くなる。
愛しい人から自分を求められる快感。
受け入れたい、とは思う。
だが、怖いのだ。
全てを預けることが。政宗が今まで拒んできた理由もそこにあった。
女好きのこの男が、自分を好いていると言ってくれた。






信じていないわけではないが、もし、体を開いたあとで、やはり女がいいと飽きられたりでもしたら・・・―。















強い快感の波に、政宗は強く目を閉じた。


「んっ―――ぁ、あ・・・――!!!!」


びくんっ、といっそう大きく震えて、政宗が果てた。

こわばっていた体の力が一瞬抜けるが、孫市が腰を抱えると、再び全身が緊張する。








膝がかたかたと震えていて、握りしめられた両の手をみるとなんだかひどく可哀想に思えてきた。









我に返った、とでもいうのだろうか。
孫市はきつく結んだ手首の紐を解いた。
政宗はきょとん、としている。
てっきり、自分はこのまま、犯されるものかと思っていたから。



「政宗・・・、政宗。」
涙を流す政宗を、孫市は後ろから抱きしめる。
「悪かったよ、ごめん」
「嫌だったら、突き飛ばしていいから。殴ってもいいから。」



だから




泣かないでくれ
見捨てないでくれ
嫌いにならないでくれ















ひどく、今更な気がした。
無理矢理体を開かせて、押さえ込んで、抵抗も無視して。
泣かせたのは自分なのに、泣かないでくれなんて、矛盾してる。





































いつもの孫市に戻ったことで、政宗も冷静になった。
孫市のこの体温を失いたくない、と思う。
少し震えながら、自分を強く抱きしめるこの男を愛しいとも思う。









「・・・次に、わしの許可なくこのようなことをしたら、許さん」



「じゃあ今は、許してくれるって事か?」
こくん、と耳まで真っ赤にした政宗の顔が動く。


自分がまた、政宗の中に居場所を得たようで嬉しくて。
ぎゅ、と更に力を込めた。








「・・・・・・・俺、もう我慢出来ないんだけど」
まだお預け?と情けなく尋ねると、政宗が腕の中で身じろいで、力を緩めると向かいあうようにこちらを向いた。
何かと思うと、膝の上に股がって、耳元に口を寄せた。
そうして、そっと呟く。





「わしも、お前が欲しい」と。







こりゃあ加減なんてできないね、と心の中で思いつつ、孫市は政宗の腰に手を回した。









































絡めた舌が熱くて。
触れる肌が熱くて。








死んでしまうかと思うくらい、全てが心地よい。













「ん、ぅ・・・ん」
丁寧に絡めた舌を離すと、名残惜しそうに唇が離れる。
溢れた唾液をぺろ、と舐めて、そのまま何度も軽く口付け、片方の乳首を指で潰して、もう片方に舌を這わせた。
固くしこるそこは赤く、そして孫市の唾液でヤらしく光る。
「っ、ぁ・・・あっ」
達したばかりでも若い体は快楽に溺れ、僅かな愛撫にも反応する。
両の粒を堪能しながら、やわやわと性器を揉んでやると、緩やかな、けれども甘美な快楽を伴う刺激に政宗の体が跳ねた。
息の上がる政宗から、上半身を起こして僅かに離れた孫市が、色に塗られて涙を流す政宗をじっと見た後で、躊躇いも無く半勃ちのそこを口に含んだ。
「っっ!まご・・・あっ、んぅっ」
温かい粘液に包まれて、政宗の腰にぐっ、と力が入った。
竿を舐めあげたあとで透明な液体を出すそこを丁寧に愛撫する。
「あ、ひうっ・・・ふ、ああ・・・」
溢れる液体が出るたびに舐めとられ、恥ずかしくて止めて欲しいのに、気持がよくてしょうがない。
根元まで降りた舌が更に下へといき、その蕾を吸った。
「―――!!!駄目じゃ、孫、いち・・・っそのような・・・、ァああっ」
慌てた政宗が止めようとするが、体に力が入らない。
孫市の舌が、入口を這っている。
許すとは言ったものの、そんなのは耐えられない。
もっとも、それは少しでも政宗の負担をかけさせないためのものだったが。
丁寧に舐められて、吸われて、政宗のそこがひくつきはじめた。
孫市の唾液と、己の蜜で十分に濡れた蕾の入口を、孫市がくるくると指で撫でた。
「っ、ふ・・・」
政宗が固く目を閉じると、つぷ、とそれが侵入する。
「痛いか?」
内側を優しく、押し広げられる感触に痛みはない。
政宗はふるふると首を振った。
痛みはないが異物感がある。
だが徐々に指が増やされるにつれて異物感が快楽に変わり、3本目が侵入を果たすと、孫市の指が政宗のしこりをかすった。
走るような快楽が背中を駆け抜けて、政宗の全身に力が入り、孫市の指をしめつけた。
「やっ、そこ・・・・、うぁっ!」
偶然かすめたそこを今度は強く擦られて、政宗の中心から蜜が溢れた。
「嫌じゃないだろ・・・?素直になれよ」
そう言って執拗にそこを攻めたてる男を睨みつけるが、欲に濡れた瞳ではそれは逆効果で。
「政宗、それスゲーそそられる」
そう言ってず、と最奥まで勢いよく入れた指を、同じように勢いよく引き抜いた。
「んぁっ!!」
息を整えようとする政宗を後目に、孫市は自分も着ているものを脱ぎ、その体を月明かりの元に露にした。
何もしなくても孫市のそこは猛り、熱くなっていた。
びく、と孫市のそこを見た政宗が震えた。
その様子に右足を抱えた孫市が、「政宗」と優しく名前を呼ぶ。
目が合った、と政宗がそう思った瞬間に、孫市が自身を蕾に押し入れた。
「んんッ!!」
指を遥かに超える圧迫感と熱に、政宗ね目が見開かれる。
「ん、ふっ・・・イ、ぁっ・・・」
徐々に侵入するそれに、政宗は眉を寄せて耐えていた。
孫市も、きゅうきゅうと締め付けるそこに、短く息を吐き、苦しさと快楽が一体になった刺激に耐える。

「はっ、は、・・・ァ、まご、ぃ・・・んっあ」
全てが政宗のナカに飲み込まれると、孫市は再び腰を引いて、そして軽く打ち付けた。
どんどん深くなる挿入に、政宗の体が震える。
孫市が腰を動かす度に卑隈な音がして、羞恥心からぎゅう、と強く目をつむった。
「はっ、あっ、ぁ、んぅ」
出し入れを続けるまま口を吸われれば、もう何も考えられなくなる。


舌を絡めれば孫市の味がして。


きつく抱きよせれば、独特の、あるはずもない甘さを含んだ硝煙の臭いがした。


五感が、完全に支配される。




















「ぁ、あうんッ・・・も、ぉ、い・・・くっ」
遠慮のない攻めに、政宗の体が悲鳴をあげる。
その度に孫市の自身も、無意識の内に決して離さまいとする政宗に締め付けられ、大きく脈打った。
「っ、政宗・・・やっぱお前、最高だ」


「、ァ――――――ッ!!!」


いっそう激しく挿入すると、政宗が声も無く射精した。




ぎゅう、とした締め付けに、孫市もその体内に精を放つ。

己を満たす熱に、政宗は嫌悪よりも安堵を感じた。
















呼吸を整え、自身をゆっくりと政宗から引き抜くと、孫市はぽす、と政宗の隣りに倒れる。
見れば、余程疲れたのか、政宗はすうすうと寝息をたてていた。
















触れた体温が愛しくて。










一生この場所を離れない、と。






















そう思いながら瞳を閉じた。